しふくをせいふく。
高校生の時。私はよーく秋葉原に通っていた。
学校があるのは東中野。学校帰り、総武線に乗って、秋葉原に向かう。
今では盛り上がりまくっているアキバも、当時は飲食店など皆無の土地だった。
あるのは、オタク向けショップ。無論、目指す場所もそこである。
4〜5人の同志とともに、秋葉原駅に着く。
駅で解散、基本、グループ行動はしない。
各々まわりたいルートと、時間をかけたいショップがあるのだ。
そして、互いにそれを尊重していた。
同志の中。駅から離れる前に、トイレにかけこむ者がいた。A君としよう。
私の学校は全員、学ランが決まりであったのだが、
彼がトイレから出てくると私服になっていた。彼は言う。
「学ランのままだと、買えないブツがあるんだよ」
A君はブツを買うため、わざわざ学校まで私服を持ちこみ、
駅のトイレで着替えたのだ。脱いだ学ランはコインロッカーに入れる。
様々なブツを効率良く購入するため、身は軽くした方が良い。
帰りは特に集合などせずに流れ解散になる。
翌朝、彼女とあーしたこーしたという話しを
くっちゃべるギャル男(当校では “猛者” と呼んでいた)の後ろ。
私たちは、戦利品を持ちより、
脳内彼女をあーするこーするという話しをするわけだが、あることに気づく。
A君がいない。どうしたのだろう。
彼ほどこの会合を楽しみにしている者はいないというのに。
お昼ごろ、A君は登校してきた。
「朝はどうした? 同志たちは心配してたぞ」
「すまない。参加する気持ちはあった。しかし、物理的に行けなかったんだ」
よくよく聞くと。秋葉原で手に入れたブツ、家まで我慢できず、駅裏の公園で読みこんでいた。
制服の学ランを入れたコインロッカー。夜23時にしまる。
読みこみすぎて、気づいたら23時を過ぎていた。
つまり、翌朝まで学ランが取り出せない。という状態に陥ったのだという。
素晴らしい。後先のことなど考えず、今やりたいことを我武者羅にやる。
それこそ、A-boyの鏡である。A君はしばらく “レジェンド” とよばれることになる。
制服なんぞに、征服されてたまるか。私服なんか、クソくらえ。
熱いハート。身をまとうのは、それで十分だ。
すなわち、鎧。さまよう、鎧。
2015年5月31日 00:27 | カテゴリー:日常とデザインの間口を拡げる雑文, 更新企画
- 「ロゴマークを軸とした展開。」が特長のグラフィックデザイナー永井弘人による、「日常とデザインを拡げる雑文集。」日本タイポグラフィ協会正会員。年鑑ベストワーク賞受賞。著書「デザイナーになる。」(MdN)執筆・出版。
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